『遠い日の戦争』吉村昭・著/妻鹿漁港(姫路市飾磨区)
 『戦艦武蔵』『破獄』『関東大震災』など、吉村の作品の多くは史実と証言の徹底的な調査と検証にもとづいていて、人物の主観的な感情表現も含めフィクションを極力排除している。題材も江戸時代から現代にいたる歴史を織り成した人物や事象を対象にしたものが多い。
 この小説もそうした作品群の1つである。空襲情報主任の任務にあたっていた主人公・清原は、「野鼠の群を一時に焼殺する駆除にも等しい」無差別爆撃を目の当りにして怒りに身を震わせ、捕虜の米兵に対する斬首刑に自ら手を下す。殺された市民に代わっての復習だったが、「終戦」を境にした価値観の大転換によって、一転して「戦争犯罪人」とされ逃亡する。
現在の近代化された妻鹿漁港。東隣が白浜海水浴場  やがて清原は姫路へ。「…干潟は町のはずれにあった。妻鹿漁港が近く、漁船が沖から帰ってくる。付近一帯にひろがる塩田には、菅笠をかぶって作業する男や女の姿が見えた」。知人に匿われながら、肉体労働に就き辛うじて生きていく主人公の目に映った白浜から妻鹿にかけての、敗戦間もない風景が克明に描かれている。
 山陽電車白浜の宮駅下車。南へ1km。駅のすぐ南には灘のけんか祭で有名な松原八幡神社がある。
(浩)
2008年8月26日号