『ノルウェイの森』村上春樹・著/西宮回生病院(西宮市大浜町)
 「……我々は病院の門をくぐる前に海岸べりに寝転んで一息ついた。海はそのころには汚れていたし、夏も終わりに近かったので泳いでいる人の数は少なかった」。
 1949年生まれの村上は、香枦園小学校から芦屋の精道中学校を経て神戸高校、早稲田へと進んだ。京都生まれだが、父親の転勤で夙川に移り住んだ。「夏になれば毎日のようにここで泳いでいた」(『辺境近況』)と、香枦園浜で遊んだ少年時代を述懐している。
 昭和初年建築の回生病院。アーチ状の玄関口が印象的。野坂昭如の『火垂るの墓』にも登場する  その砂浜の西側にある回生病院が『ノルウェイの森』に出てくる「海岸の病院」である。
 この作品は、学生運動を背景として、主人公の「僕」と自殺した友人の恋人「直子」を軸にして、思春期特有の葛藤や人間模様、恋愛、喪失感などを巧みに描いたもので、20年前の刊行以来、国内では上下430万部のベストセラーになり、近年では英語圏はおろかドイツ、フランス、ロシア、中国や韓国など、ほぼ世界の主要な言語に翻訳されている。
 ちなみに、処女作『風の歌を聴け』は、『ノルウェイの森』以上に、当時の阪神間の風景を描きこんでいる。
(浩)
2008年9月9日号