『酸素』大岡昇平・著/兵庫運河(神戸市兵庫区高松町)
 「ドック、突堤、倉庫、起重機、煙突など、港の水際を形づくる設備が、さまざまの光度の燈火を、飾花のようにつけたまま、次第に輪郭を現そうとしていた…」。
今は運河や史跡に沿って遊歩道も整備されている兵庫運河  戦前の神戸港を背景にしながら、フランス系企業の帝国酸素が海軍の圧力で乗っ取られていく過程を描いた。大岡は1938年から43年まで運河近くにあった帝国酸素兵庫工場で働いた。当時、戦争の中で事業を広げるが、軍需戦略産業であり反枢軸国系企業だったことから軍部に目をつけられ、仏人首脳はスパイ容疑で国外退去となり、支配権は次第に軍部に掌握されていく。フィクションだが、自身の体験にもとづいており、戦前の神戸港や社会状況を知るうえで貴重な作品といえる。
 大岡の代表作とされる『俘虜記』『野火』『レイテ戦記』などは、1944年に召集されてフィリピンに送られ捕虜になった体験から生まれたが、反戦文学としても秀逸の作品群である。
 かつて大岡が歩いた兵庫運河界隈は、いまも重厚長大産業が軒を連ねるが、運河や史跡に沿って遊歩道が整備されなど、憩いの場になっている。
 兵庫運河へはJR兵庫駅から南西へ7分。
(浩)
2008年11月11日号