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■ 最終所見と政府の姿勢 ■

最終所見と政府の姿勢

 2001年8月31日に採択された「第2回報告」に対する最終所見(または見解)の内容は、日本社会に根強い女性や在日外国人に対する差別、ホームレス、労働時間、教科書問題、さらに裁判官や検察官、弁護士の国際人権規約に対する認識の低さなど、多岐に渡り、勧告もかなり厳しいものでした。震災に関しても、当事者との協議の不足、ケアもなく慣れない環境で暮らす高齢者、再建ローンの負担などの問題が、かなり具体的に指摘されています。
 所見を受けて、フォロアップのためのNGOと外務省との対話の場が持たれました。しかし対話は表面的で、政府代表は報告書審査で述べた内容を繰り返すに過ぎず、NGO側に大きな不満を残しました。
 また2001年11月に行われた衆参両院の災害対策特別委員会では、阪神淡路大震災の復興について、議員が所見を取り上げて質疑を行いましたが、村井仁防災担当大臣は「所見には日本政府の説明が十分に反映されていない」「明らかな事実誤認がある」「国連の担当事務局長に申し入れをして、事務局に認められた」などと答弁をし、誠実に所見に対処する姿勢は見せていません。
 ちなみに、ここで大臣の言う「申し入れ」とは、日本の政府高官と社会権規約委員会事務局長との非公式な意見交換に過ぎず、会見自体も回答も正式なものでないことが、NGOの調べでわかっています。

最終所見の意図

 所見の目的は、その国の人権の実情を批判することではなく、その国の人権に関する状況の改善や向上を促すことです。所見の評価の対象は、政府がどれだけの施策をとってきたかではなく、それらがどれだけ実際に人権実現に役立ったかという、実質的な側面です。委員会は政府からだけではなく、一般市民やNGOからの情報提供を求め、機会があれば実際に現地に赴き、幅広い情報の収集につとめます。(一般的意見1参照)。
 日本政府は、中央、地方のレベルを問わず、所見の内容を謙虚に受け止め、国内の人権の状況を見直すよいきっかけとして、有効に活用して行くべきでしょう。

今後に向けたNGO/市民の役割

  所見を「事実無根」とする政府の姿勢については、被災地のNGOから社会権規約委員会に、文書および報告者の派遣によって伝えられました(2002年春会期/ジュネーヴ)。また、この情報提供の事実は、在ジュネーヴ日本政府代表部(日本領事館)にも報告され、日本の中央政府に伝えられました。

 社会権規約委員会の日本担当の委員からは、今後、所見をより現実的なものとしていくために、また次回の政府報告書の提出と審査に向けて、NGOや市民がなすべきこととして、次のような助言が伝えられました。

 NGOの作った記録/報告書は、次回の審査時に、委員会にとっての有力な情報となります。報告書に関する諸々の動きは、報告書提出の2、3年前に始めるようにという助言もありました。次回の日本政府報告書の提出期限は2006年6月末日です。


[文責:渡辺玲子 / 監査:中井伊都子]
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 解説1 基本的人権と国際人権規約
 解説2 日本と国際法との関係
 解説3 報告義務
 解説4 日本政府の報告書
 解説5 社会権と居住権
 解説6 社会権規約委員会と一般的意見
 解説7 最終所見と政府の姿勢

 「居住の権利」目次
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