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■ 社会権、居住権について ■

社会権と自由権

 社会権には、衣食住など適切な生活水準についての権利、労働に関する権利、教育を受ける権利、組合を組織する権利、家族生活を守る権利などが含まれます。「居住の権利」の大きな拠り所となるのは、社会権規約、第11条[適切な生活水準についての権利]1項、「自己及びその家族のための適切な食糧、衣類及び住居を内容とする適切な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める」という一文です。

 自由権には、言論の自由、宗教の自由、拷問を受けない権利、投票をする権利、公平な裁判を受ける権利、正当な理由なく投獄されない権利、平和的なデモをする権利などが含まれます。

社会権の重要性

 これまで一般に「人権」と言うと「自由権」を考えることが多く、社会保障的な社会権には、あまり関心が払われてきませんでした。しかし近年、すべての人が人間らしい生活を営むための「社会権」の必要性を見直そうという動きが、急速に高まっています。
 その背景には、冷戦が終わって社会主義が崩壊するにともない、今度は「自由主義」が偏重され、自由の名の下に、競争や市場原理が、すでに恵まれた人々の立場をさらに有利に、弱い立場の人々をますます置き去りにしつつあるという事実があります。貧富の差が極端に広がり、限られた人々が湯水のように資源を使って暮らす一方で、多くの人々が住むところも食べるものも満足にない暮らしを強いられています。

居住の権利

 人間らしい暮らしのための生活水準としてあげられるのは、衣、食、住、そして健康保護と教育の権利です。その中でも「住」は、すべての生活の舞台、他の権利実現のための基盤ともなる、大切な権利です。「居住の権利」とは、「住」をたんなる建物としての住まいではなく、大きく「住環境」としてとらえ、基本的人権として守り、発展させていこうとする考え方です。「適切な住まいパートII」参照)

 過去50年ほどで、世界の人口は倍以上に増えました。1999年の地球の人口は60億人以上です。国際連合によると、そのうち1億人が家さえ持たず、10億人が「不適切な」ところに住んでいると言われます。実際の数はその10倍ほどにもなるとする活動家もいます。都市部の人口の40%から50%がスラムに住むという国もあり、スラムの住人たちは、開発や都市の美化という名の下に強制的に立ち退かされたり、住処を壊されたりしています。また紛争や自然災害によっても、多くの人々が住み慣れた街を壊されたり、立ち退いた後そのまま戻れずにいます。
 明らかに人為的な都市計画や紛争は言うに及ばず、自然災害による被害が必要以上に大きくなるのも、また個々の被災者の暮らしの再建がおろそかにされるのも、基本的人権としての「住」を守り発展させようという意識が低いからと言えます。

 1996年、国際社会は、トルコ・イスタンブールで行われた第2回国際連合居住会議で「居住の権利」という概念を基本的人権の一つとして認識することを、「イスタンブール宣言」として、日本も含む満場一致の採択によって再確認しました。


[文責:渡辺玲子 / 監査:中井伊都子]
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 解説1 基本的人権と国際人権規約
 解説2 日本と国際法との関係
 解説3 報告義務
 解説4 日本政府の報告書
 解説5 社会権と居住権
 解説6 社会権規約委員会と一般的意見
 解説7 最終所見と政府の姿勢

 「居住の権利」目次
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