(註:この後、時間の都合でまとめて意見等を受けた)

G 若年単身者は公営住宅に応募できない

Q: レッキーさんは被災地の行政のやり方をご存じだと思いますが、もう一度説明させていただきます。震災の年の8月20日に、約1万人の避難者が避難所にいたにも関わらず、災害救助法が切られました。神戸市も兵庫県も、避難者ゼロという形にしたかったのでしょう。避難者はゼロだから、仮設の斡旋も食事の提供もしない、何もしないという考え方です。私は公営住宅に移っていますが、震災前は健常者だった私の母は、避難所や仮設で苦労したために、重度障害者になってしまいました。行政の人間が私に「公営住宅に移れて良かったですね」と言いましたが、何もうれしいことはない。母を震災前の健常者の姿に戻して欲しいですからね。あの役人の顔は忘れられません。

 今の公営住宅の斡旋や抽選では、今年の1月中旬をもって特別措置法が切られたために、50才未満の単身者は応募ができなくなっています。法律だから、という理由で、約300人が取り残されています。若いんだから自分で捜せ、ということなのでしょうが、若いから働くところがあるというものではないし、これも差別だと思います。

 私の知人の48才の女性は、震災でご主人とお子さんを亡くされ、単身若年者として扱われています。でも行政は、「気の毒だとは思うがその人に特別に斡旋を行えば、他の若年単身者への差別になるからそれはできない」と言います。
 この若年単身者の問題をどうしたらいいでしょうか。


H 区分法により切り捨てられた20%の住民

Q: 区分所有法についてお聞きしたいと思います。日本では、80%の住人が建替えに賛成ならば建替えが決まり、残りの20%は切り捨てになります。住む権利として、他の国ではどうなのでしょうか。


I 災害基準法における補償金の項目

Q: 災害基準法には、補償の補助が出るという項目があったと思います。ところがこの度の災害では、解体に対してはあらゆる面で補助が出て解体を促進することになりましたが、その他の補償金は私たちの運動にも関わらず、わずかな生活自立支援金しか出ていません。これも解体や仮設を出ることが支給の条件になっています。こうした制度をどう理解したらいいのでしょうか。
 また私は今も仮設にいますが、助言をお願いします。


J 国の法的支援を要求する運動

Q: 公的援助法実現ネットワークの者です。レッキーさんのお話で、私たち自身が要求していかなければ何も実現しないのだということと、国際人権規約からの人権問題としての捉え方を伺って、共感を覚えました。

 私たちは国の法的支援を要求するための運動を繰り広げてきました。その結果、被災者生活支援法の枠組み作りには到達しましたが、非常に不十分なものになってしまいました。私たちが訴えたのはまず住居、家財道具、そしてコミュニティの問題でした。でも実現したのは、家財道具を少々回復する程度のものでしかありません。法的支援は終わったのではない、要求をもっと多面的に繰り広げていきたいと思います。

 私たちは憲法上の要求として生活基盤回復のための運動をしているのですが、憲法の制定段階から、すでに居住の権利が含まれているということを皆さんにご理解いただき、憲法上、私たちの要求は正当だということを知っていただきたいと思います。


K 諸問題に共通していること

レッキー: 今、5人の方が提起された問題は、全て震災後の居住の問題だと思います。一つの共通点は、皆さんが震災後、政府の定めた住居に関する決定について、大きな不満を持っているということでしょう。ある方は災害救助法について話され、ある方は単身若年者について話されましたし、病気になった方の話や仮設から追い立てられそうになっている話もありました。

 これらの問題を解決する方法は、この国に存在する公的措置を追求することだと思います。地域の裁判所や国際的な場に、NGOや人権擁護団体などを通じて、問題を提出することができます。

 今回のような良くない出来事や、思い出したくもないような経験は、私たちが力を付けていくための材料として使って下さい。こうした事態はもう決して未来には起きてはいけないのだ、という方向への力です。未来に向かっても、また社会一般に向けても、この力を広げていっていただきたいと思います。




市民集会「被災者に復興はあったのか」    
 日時:1998年11月11日(水)6:30pm
 場所:神戸市勤労会館2階 多目的ホール
 主催:スコット・レッキーさんを被災地に呼ぶ会:
  国際居住福祉研究所/灘医療生活協同組合/早川居住講座/神戸YWCA/他有志
 コーディネーター:熊野勝之(弁護士)/早川和男(神戸大学名誉教授)
 司会:児玉善郎(産業技術短大助教授、早川居住講座)
 通訳:渡辺玲子
 国際法の補足説明:中井伊都子(甲南大助教授、兼通訳)



国際居住連合:HIC(Habitat International Coalition)
 
 1976年に設立された、独立かつ不偏不党を旨とする、国際連合登録のNGO居住権擁護団体。75ヶ国、350以上のNGOやコミュニティ団体からなる。これらのグループは世界各地のあらゆる場所で、すべての人々に適切な住居を確保する人権の実現を求めて活動している。本拠地はメキシコ(その後、南アフリカに移転)
 1995年9月23日から10月4日まで、阪神大震災被災地域に居住権事実調査団を派遣、その結果、日本政府が負っている法的な義務と、被災地域の住宅の実情との間に、大きな隔たりがあると判断し、行政に対し14の勧告を行った(『救済はいつの日か』参照)。
 調査団メンバーは、E.オルティス氏(メキシコ)、A.レヴィ氏(インド)、L.ファーハ氏(カナダ)、そして今回来日したS.レッキー氏の4人。


スコット・レッキー氏 

 1962年生。アメリカ、オランダの両国籍。HIC顧問弁護士。居住権・強制立退き問題センター共同所長。1995年、HIC事実調査団のメンバーとして来日。
 今回は、別件でアジア各地を回っていた同氏に特別要請、最終訪問地であった韓国から足を伸ばしてもらい、被災地再訪が実現した。

 
記 録 

11月9日(月)到着。解体再建か補修かで紛争の続いているマンションを視察。歓迎レセプション。
10日(火)視察。 兵庫区本町公園自力仮設住宅(元テント村) 〜 長田区西代仮設住宅 〜 長田再開発区域(高層ビルへの入居を強いられている地元飲食店) 〜 菅原市場(震災で全焼、仮設で営業中) 〜 市役所南東遊園地のホームレスの人々 〜 ポートアイランド第3仮設住宅 〜 HAT神戸(復興住宅)
11日(水)兵庫県、神戸市との対談、および要請。兵庫県政記者クラブにて記者会見。市民集会。



おすすめ参考文献

[ 訳/文責:渡辺玲子 ]


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