-6- 居住権実現のために日本で人々がすべきこと

 疑いなく言えることは、この国の人々はもっと人権としての居住権について知るべきだということです。そして行政は、常にもっと人々からの圧力を受け、自らの負う居住の権利の実現の義務を理解すべきですし、メディアは常に新しい情報を得て、報道量を増やし、もっと居住権が尊重され発展するように貢献すべきだということです。居住という文化を育てましょう。住居、どこに、どのように人々が居住するかは、他のすべての人権と同様、社会的に重要なことなのです。

 ただし私たちは、居住の権利を語る場合に、国や住宅市場がすべての家を建てなければならないと言っているのではありません。この権利のすべての側面が、即座に実行されなければならないのだと言っているのでもありません。

 私たちが伝えたいメッセージは、国際人権規約によって、この部屋にいるすべての人々、その友人や家族、そして社会のすべての人々には、人権としての居住の権利があるということ、そして政府にはその居住の権利を尊重し、保障し、促進し、満たす義務(注2 )があるということです。そして人々の希望や要求が政府の義務と結びついたとき、居住の権利は実現され、この社会で居住権を侵害される人はいなくなるでしょう。



-7- 「居住の権利」を認識することの重要性

 裁判を起こす権利を否定されたり、投票権を奪われたり、不公平に扱われたり、あるいは自由を否定されたりすれば、人々は怒るでしょう。同様に、家を失う羽目になれば怒るでしょうし、質の悪い家に住むことを強制されたら気落ちするでしょう。居住もまた、この社会構造の中で、等しく人権の一つなのです。

 居住の権利が基本的人権なのだという認識が持てれば、居住の権利も他の権利と同様に行政によって侵害され得るということが認識できます。侵害の可能性を認識できれば、侵害を終わらせるために取るべき行動も認識できます。居住権侵害がどういうものかを人々が認識できれば、侵害を終わらせることも、また将来起こらないようにすることも可能になるのです。

 法的根拠もちゃんとした理由もない強制退去は、明らかに適切な居住を得る権利の侵害です。政府が意図的に、居住の保護のための費用を切り詰めるなど、居住の権利を損なう施策や開発を行えば、これも居住権の侵害です。ホームレスの人々が道路に寝ている状況を放っておいたり、彼らの保護を怠れば、これも人権
の侵害です。女性、少数民族、老人、子供などを、適切な住居を得られないような状況に追いやる差別があれば、これも居住権の侵害です。

 居住の権利についてもっと真剣に考えるようになれば、人々は政府に対しても、もっと真剣に居住権の実現義務を果たすように要求するようになるでしょう。


-8- 経験を糧に声を上げよう

 再び申し上げますが、人々が声を上げて居住の権利の侵害を指摘しなければ、政府が行動を変えて、これ以上居住権侵害が起こらないようにすることはありません。ここ神戸において、震災の後、確かに居住の権利の侵害はあったのです。過去に起きた居住権侵害が、未来には起きてはいけないのです。これは私の心からの希望でもあります。

 阪神大震災の悲しい経験、また震災後のいろいろな経験を元にして、皆さんの居住の権利獲得のための行動を続けて下さい。その動きはやがて神戸という枠を越えて、さらに多くの人々の注意を引きつけ、さらなる行動の源となるでしょう。その時「居住の権利」は、復興政策に関する意味のみならず「居住」を示す言葉となり、居住の権利の侵害に苦しむ人のいない社会が実現するでしょう。

 ありがとうございました。



─ 質疑応答 ─

@ 今回来日の印象

早川: 昨日被災地を見て回り、今日は市と県に申し入れをしたそうですが、3年経った印象はいかがですか?

レッキー: 3年の間に変化はたくさんあったと思います。一番大きな変化は、仮設住宅や待機所にいる人の数が減ったことでしょう。ただ1995年9月に事実調査団で来たときには、よもや3年後にまだ仮設が存在しているだろうとは思いませんでしたし、住居の問題はすべて解決されているだろうと思っていましたから、印象と言われれば、驚いた、ということになります。


A 建物解体が支給条件の生活自立支援金

Q: 被災マンションの住民の支援活動をしています。被災者自立支援金が法律に基づき支給されているのですが、これは被災した家屋が解体されていなければ支給されません。補修で充分住める被災マンションの住民に対し、建物の解体と住民が出ていくこととを前提として、宝塚市がこの支給の手続きを始めました。金融公庫の調査では、被災地の6割のマンションはこうやって壊されていったといいます。国際法に違反しています。被災者を助けるお金を居住権を損なうために使っています。この実態をぜひ知っていただきたいと思います。

Q: 建替えか補修かで議論になっているマンションの住人なのですが、お金がないので建替えに反対すると、お金がなかったら小さな部屋に入れと管理組合が言うんです。

レッキー: こうした状況は居住の権利がどういうものなのかを知るいい例です。本当に問われるべきなのは、そこに住んでいる人々がどうしたいかということです。

 解体の必要がない建物を多額の費用で解体する例は、震災直後によくありましたが、他国の多くでは、特に建物の持ち主であれば、不必要に家が解体されたら補償金を請求できるのが通常です。法的な戦略を立てて下さい。これは一つの差別です。与えられている選択肢は、建物から出てお金をもらうか、お金をもらえずに建物に残るかです。いずれにせよ満足はできません。この点を議論して下さい。解体していようがいまいが公平にお金がもらえたのであれば、違った形になったでしょう。

 他の国際人権法の適用も考えられます。例えば「居住の自由、住む場所を自由に選ぶ権利」(注3) があります。強制的に転居を迫られるのなら、この権利が損なわれているということです。また「自分の家族を尊厳を持って守る権利」も損なわれていますし、諸状況の中で見られたくない部分も見られているでしょうから、「プライバシーの権利」の適用も考えられます。

 ヨーロッパ人権裁判所で行われていることですが、比例原則論で考えることもできます。例えば家主と借家人、行政と市民との関係が、どれだけ公平なバランスを保っているかを見るのです。今、問題になっている件については、住民が一方的に退去を迫られているので、公平な比例原則が守られているとは言えません。

 日本の裁判所に居住の権利を認識させるまでの道のりは、まだまだ長いと思いますが、こうした事例を通じて努力を続けて下さい。



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