邀撃プリンセスナイン――如月女子高野球部奇襲命令
解説篇
はじめに
ルール内で行われるスポーツと、人の生き死にのかかった戦いを同一視点で語る愚は承知しているが、それらを扱った物語が盛んに生み出されている理由を説明するのはそれほど難しいことではない。
すなわち、日常ではなかなか体験出来ない”勝敗”を明確な形で描写出来るからである。勝利という明確な目標が提示出来るから、と言い換えても良い。
勝利より敗北を好む人間などいる筈もない。
だが、賞賛無き勝利と、栄光に包まれた敗北のどちらかを選ぶとしたら、個人差が生じることはあるかもしれない。日本人はとかく後者を選びがちだという意見もある。
プリンセスナインにおいては、ともすれば少女漫画的三角関係の愛憎劇に展開が流れ、「体格的に劣る女子が、努力と根性で男子にすら勝利してみせる」という展開を期待する一部ファンをいらつかせ続けた。
それでも最終話には誰もが期待した。甲子園出場という大前提の目標が提示されていた以上、最終話が地区予選決勝になるか甲子園の決勝になるかはともかく、締めは野球で確定している、と信じたからである。
その推測は一応あたっていた。だが、結末は納得の行かないものとなった。彼女たちは、ライバルである兄弟校・如月高にサヨナラ負けを喫するのである。
物語としては完結したのかもしれない。あるいは、続編への含みを持たせた展開だったかもしれない。
しかし、一番問題と思えるのは、ここで負けてしまったが為に、それまで黙殺されていた野球チームとしての数々な不備が、どうにも気になって仕方が無くなってしまったことである。
敗因は、ただ単に、早川涼がメンタル面での脆さを克服できず、序盤の失点が致命的となった、というだけですまされるものではない。
三番・堀田、四番・氷室が九回まで凡打を繰り返したことに責任がある訳ではない。
立つのさえやっとという早川をマウンドに送り続けなければならなかった控え選手のない薄い戦力。
試合の最後、疲労が限界を超えたところで真価を発揮すると言われる”イナズマボール”に全てを託したようにみえるが、実際の所、リリーフとして登板出来る選手を一人も有していなかっただけなのである。
実力で劣る以上、采配の妙で優位を獲得せねばならない状況に置いて、あっさりと指揮権を放棄する監督。
その結果、クリーンアップ(特に、三・四番)に繋いで得点するという攻撃パターンしか持たない如月女子打線は、九回まで得点出来なかった。
数え上げればキリがないが、主としてこの二点が、致命傷となって如月女子の勝利の可能性を奪っていた。
もしこれらが改善されていたならば、あのような無様な負けっぷりをさらさずに済んだのではないか、そう思えてならないのである。
果たして彼女たちは本当にベストを尽くし、矢尽き刀折れた上で敗北したのか。もしそうでないなら、何故ベストを尽くさなかったのだろうか?
拙作『邀撃プリンセスナイン』は、「甲子園出場を果たすためには、高杉宏樹を擁する強豪・如月高校を打倒しなければならない」、という明確な作戦目標を、木戸監督が如月女子野球部創設当時から持ってチーム作りを行っていたら、という視点のシミュレーションを行う。甲子園出場に向けて周到な準備を整え、それが勝利という形で成果として結実していく……。右派的ファンが夢見た展開を再現出来れば、これに勝る喜びはない。
なお、ストーリー展開の都合上、多数の作中オリジナルキャラクタを登場させることになるので、その点は了解していただきたい。
<主な登場人物>★は本作オリジナルのキャラクタ。()内は原作における地位。記述がない場合、原作も同様。
如月女子高
木戸 晋作 野球部監督。高校時代同じ野球部だった早川英彦の遺した手帳を元に、”Z作戦”を立案し、如月女子高野球部を甲子園に導くべく奔走する。
吉本 ヒカル 一年。一塁手。右投両打。背番号3。大阪出身。中学時代には全国大会の優秀選手に選ばれた名バイプレイヤー。小技を利かせたプレイと、柔軟な思考の持ち主で木戸監督の右腕となる。
堀田 小春 一年。中堅手。右投右打。背番号8。高知出身。”荒波スイング”と呼ばれる豪快な打法を誇る長距離砲。野球センスを買われ、吉本と共に木戸の腹心として働く。
早川 涼 一年。投手。左投左打。背番号1。八百長疑惑でプロ球界を追われた名投手・早川英彦の娘。130キロ以上の球速を持ち、英彦が投げた”イナズマボール”もマスターするが、直情派で、心理的に動揺すると制球を乱す悪癖がある。
氷室 いずみ 一年。三塁手。右投右打。背番号5。中学時代はテニス部。堀田と並ぶ長距離砲。一見冷静そうに見えるが、内に秘めた闘志は誰よりも熱い。如月高の高杉宏樹とは幼なじみの仲。
大道寺 真央 一年。捕手。右投右打。背番号2。「早川涼の速球を捕れる」事を第一義に入部した急造捕手。柔道部出身。やや気弱げな態度が目立つ。
森村 聖良 一年。二塁手兼投手(二塁手)。右投左打(右投右打)。背番号4。中学時代は陸上部で、100mと槍投げで県記録を更新した俊足と強肩の持ち主。
三田 加奈子 一年。遊撃手。右投右打。背番号6。三田校長の娘。中学時代から軟式野球で活躍している。ソバカスと眼鏡がトレードマークで、将来は医者になることを目指している秀才肌。
東 ユキ 一年。左翼手。右投右打。背番号7。中学時代は全国大会の最優秀選手に選ばれた、走攻守揃った選手。人形”フィーフィーちゃん”を常に肌身離さず持っている。無口。
渡嘉敷 陽湖 一年。右翼手。右投右打。背番号9。「甲子園に出場して有名になってアイドルになる」事を目指して入部。森村と反りがあわず、口喧嘩が絶えない。
赤星 理奈★ 一年。投手。右投右打。背番号10。中学時代は演劇部。足首を痛めている。一つの物事に取り組むととことんやりぬく性格。
殿村 千歌子★ 一年。中堅手。右投左打。背番号11。中学時代はバスケット部。鼻柱が強く、男子相手にひと暴れする機会を得るために野球部に参加。
宍戸 礼美★ 二年。捕手。左投左打。背番号12。「何しか気合いじゃ」が口癖。柔道部出身。腰痛持ち。
曽我部 まりあ★ 一年。三塁手。右投左打。背番号13。野球特待生として学費の免除を条件として野球部に入部。元々はバレー部。穏和な性格の中にも芯の強さを見せる。
南原 宏美★ 一年。二塁手。右投左打。背番号14。中学時代は野球部のマネージャ。如月高の一条投手と同じ中学校の出身。同じクラスの森村聖良と仲がよい。
虎田 美郷★ 二年。右翼手。右投左打。背番号15。剣道部出身。頬に剣道の試合中に負った傷跡を残している。
水野★ 一年。物理研究部との兼部で入部する。背番号16。如月女子始まって以来の秀才との呼び声が高く、三田加奈子とは気が合う。
氷室 桂子 如月女子高理事長。かつて早川英彦とは恋人同士だった。英彦の娘、涼の豪腕を甲子園で見られることを願い、野球部を創設する。
三田 如月女子高校長。野球部が如月女子高の伝統を汚すとして反対の立場を取っている。
綾小路 如月女子高の保護者会の有力メンバー。早川涼の父親が野球賭博疑惑を受けていた事を知り、野球部解散を要求する。
如月高校
高杉 宏樹 一年。一塁手。右投右打。背番号3。入学前から”超高校級スラッガー”と騒がれる逸材。チーム方針にも影響力を持つ戦略眼の持ち主でもある。
根岸★ 野球部監督。
吉田 三年。投手。背番号1。球速145キロを誇るエース。
一条 慎也★ 一年。投手。左投左打。背番号10。如月女子高の南原とは同じ中学出身。
木津根 弘太郎★ 三年。右投右打。二塁手。背番号4。守備の名手。
木津根 平次郎★ 二年。右投右打。遊撃手。背番号6。兄・木津根弘太郎と共に鉄壁の二遊間を構築している。
石島★ 三年。右投右打。捕手。背番号2。主将。如月女子高野球部を頭から小馬鹿にしている。
その他
早川 英彦 早川涼の父。故人。かつてはプロ野球で豪腕投手として鳴らした。
早川 志乃 早川涼の母。英彦亡き後、一人でおでん屋を切り盛りし、涼を育てた。
風間★ 神奈川双山高校野球部監督。木戸、早川英彦とは高校時代のチームメイト。
日下 まこと(コミック版のみの登場キャラクタ) ヤマトスポーツ記者。早川英彦の野球賭博疑惑の解明に密かに情熱を傾けている。
石丸 臨海大附属高野球部投手。
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